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病院の待合室にて
 
 税理士 三輪 厚二 氏

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◎健康が一番
   
税理士  おや、社長、どうされたんですか。
   
社 長  あれ、先生、まぁこんなとこで。いやなに、胃の再検査ですわ。この前の健康診断でひっかかってしもてね、もう血圧は高いわ、肝臓は悪いわでさっぱりですわ。
 先生こそ、どうしはったんですか。
   
税理士  えぇ、ちょっと風邪気味なんで、早いうちに薬でももらっとこと思いましてね。確定申告疲れか、いつもこの時期、体調を崩すんですよ。早めに手当てしとかないとね、この商売、体が資本ですから。
   
社 長 そうですな。
   
税理士  健康が一番。でも社長も体には気をつけないと。社長には何十人もの人間がぶらさがってるんですから、無茶したらだめですよ。それにもう若くないんですから。
   
社 長  そうですな。もう64やもんなぁ。年とったもんや。そやけど、なんや再検診や言われるとほんま、心配ですな。家内なんかも、えらい心配しよりましてな。『ガンちゃうか、ちゃんと診てもらってきいや』ゆうて。
 ほんで今日来たんですけどな。ほんまは、忙しゅうて休んどられへんのやけど。しゃあないですわ。家内がはよ行け、はよ行けってうるそうて。
   
税理士  そりゃあそうでしょう。奥さんだって心配ですよ。
   
  そこへ看護師さんの呼び声が
   
看護師  山田さーん。
   
社 長  はーい。ほな先生、行ってきますわ。
   
税理士  はい。お大事に。
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◎思い立ったが吉日
   
  数日後、社長が事務所に
   
社 長  こんにちは。先生居てはりますか。
   
事務員  あっ、社長。こんにちは。いてますよ。どうぞどうぞ。いい天候になってきましたね。せんせーい、山田社長が来られました。
   
税理士  おや、これは社長、いらっしゃい。
   
社 長  やぁどうも、先日は。
   
税理士  どうでした、結果は。もう出ました?
   
社 長  えぇ、おかげさんで、ちょっと胃が荒れてただけで、大したことありまへんでしたわ。肝臓もだいぶ数値が下がってましたし、血圧も少し高いぐらいで……しばらく様子をみましょうかって。
   
税理士  そうですか。そりゃあよかった。何よりですね。
   
社 長  えぇ、お陰さんで何とか、一安心ですわ。それでねぇ先生、まぁあれからいろいろ考えましてね。ここらでボチボチ会社の方を、息子にバトンタッチしていこかなって思いましてね。
   
税理士  うーん、そうですねぇ。息子さんももう……。
   
社 長  ええ、もう36ですわ。ええ年になってきたし……そろそろ。
   
税理士  うん、ええ頃合かもわかりませんね。
   
社 長  わしがコロッといかんうちに、ねっ。
   
税理士  そんな、縁起でもない。
   
社 長  それで、今日はその辺をどうしていったらいいか、いっぺん先生に教えてもらおうと思いましてね。寄してもらいましたんや。
   
税理士  なるほど、でも社長、事業承継っていうのは、今日言って今日できるもんと違いますからね。時間はかかりますよ。
   
社 長  そうでっか。
   
税理士  そりゃあ、そうですよ。社長だって、今の会社、ここまでするのに時間かかりましたでしょ。それが、2、3日でできたら、ね。それにもらう方だって、そんなに簡単にもらえたらありがたみがないでしょ……。
   
社 長  そらまぁそやな。で、どのように。
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事業承継って?
   
税理士  そうですね、えーっと、じゃあまず、社長の持っておられる事業承継のイメージを聞かせてもらいましょか。
 事業承継ってどんなことをすると思っておられます?
   
社 長  事業承継でっか。えーと、まず株を後継者に持たせることでしょ。そして、えー、社長交代……ですな。
   
税理士  まぁ、簡単に言えばそうですけどね。ではたとえば、株をどれだけ移転させようとお考えで?
   
社 長  そりゃあ、できるだけたくさん渡しといたらええですわな。そしたら相続税もかからへんし。
   
税理士  たくさんといっても、一度にたくさん渡したら税金かかりますよ。贈与するにしても譲渡するにしても。結構ね。
   
社 長  そーでっか。
   
税理士  そりゃそうですよ、ですから、みんなちょこちょこ贈与したり、株の評価を下げたりしていろいろ対策してるんですから。
   
社 長  ふーん。
   
税理士  それには、1株いくらかも計算しないといけないんですけど。社長、今、会社の株、いくらするか知っておられます?
   
社 長  いぃや。でも、そんなん、額面でええんとちゃいますのん?
   
税理士  あーだめですよ、そんなことしたら、びっくりするほど贈与税かかりますよ。
   
社 長  そうですのん。
   
税理士  それに社長のとこ、長男の雅一さんと次男の亮二さんがおられますでしょ、どういうふうに……。
   
社 長  うーん、そやな。
   
税理士  それに、長女の智子さんもおられましたよね。
   
社 長  あれは嫁に行った身やし、会社に勤めてるわけやないし、株なんかいらんやろ。
   
税理士  じゃあ、その代わり、何か別のものを相続できるようにしておいてあげませんとね、そうしないと後で必ずもめますから。
   
社 長  いぃや、それは大丈夫ですわ。株なんかもろてもしゃーないやろし、うちには他に財産あらへんことも知っとるし、それにあれには嫁入りのときにぎょーさんこしらえしてやってますからな、そんなこと、絶対ありまへん。
   
税理士  いや社長、今はね、そんな時代じゃないんですよ。長男に全部相続させるという話は、もう遠い昔の話ですから。今は均等相続、これが原則だと思っとかないと。
   
社 長  そんなこと、うちに限ってありませんて。兄弟、皆仲ええし。
   
税理士  いいや、そう思っているとこほど危ないんですよ。でも、ほんとにそれぐらいに思っておくぐらいがちょうどいいんですよ。自分の相続で子どもがもめたら嫌でしょ。
   
社 長  まぁなぁ。
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後継者はだれ?
   
税理士  それと、雅一さんと亮二さん。お2人こちらにお勤めですけど、どちらを後継者に?
   
社 長  そりゃあ、やっぱり雅一でっしゃろ。
   
税理士  どういう点で。
   
社 長  どういう点て、やっぱり長男やし、
 次男がなるっちゅうのもな、なんか……な。
   
税理士  それだけの理由でですか。
   
社 長  まぁ、ちょっと物足りんとこはあるけど。でもやっぱり長男やし。それに亮二もちゃんと兄貴を立てとるみたいやし。
   
税理士  うーん。まぁいいでしょ。ですけど、2人が別々にやっていくってことも、ちょっと頭に置いといたほうがいいと思いますよ。でもまぁ、そういうことでしたら、とりあえず、雅一さんにいろんなことを教えこんでいかないといけませんね。会社の経営理念から人の使い方、物の創り方やその流れ、商品管理の仕方、資金のつくり方や資金繰り、経営情報の捕まえ方などなど……そりゃたくさん教えておかんといかんことがありますでしょ。まずは、ここらから手をつけていかないと。
   
社 長  そうかぁ。そんなこと、これまであまり教えたことありまへんわなぁ。
 というか、自分でもはっきりわかっとらんとこもあるし……お恥ずかしい話やけど。
   
税理士  では、これを機に、社長にももう一度勉強してもらって……。
   
社 長  そうですな。
   
税理士  事業承継って、何かこう対策をしてチョイチョイっていうイメージがあるかも知れませんけど、本当はこういったことをコツコツと、しっかり教えていくってことが大切なんですよね。株を移したり、社長交代するっていうのはわりと簡単なんですから。それよりも、やっぱりきちんとした後継者を育てて、会社が何の問題もなく動いていくっていうようにしないとね。会社は生き物なんですから、経営次第ではすぐにダメになってしまいますよ。特にこんな時代はね。
   
社 長  そうやなぁ、先生が言わはるとおりかもしれんなぁ。そんなことやったら、もっとはようから先生に聞いて、いろいろ教えてもろといたらよかったなぁ。
   
税理士  いや、これからでも全然遅くないですよ。要は、事業承継を頭に置きながら進めていくということが大切なんですよね。何にも考えずに過ごしていくことと比べたら、雲泥の差ですよ。
   
社 長  はぁ、じゃあこの先どうやって進めていったら?
   
(つづく)
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(納税月報 2004年5月号より)

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